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2020.11.21
江戸時代からの職人の街・高岡で開催される人・食・クラフトの祭典、高岡クラフト市場街(いちばまち)。今年は市場街TVと題したyoutubeチャンネルが開設、全面オンラインで番組が配信されました。出演はもちろん、脚本、撮影、配信まで、制作会社を頼らずDIYでつくられた番組は50本以上。2週間に渡って放映された市場街TVの配信最終日前日、緊張感と笑いに満ちた収録現場にうかがってきました。
ほ、と、け、さま~ 手を合わせて~ 唱えるフロ~?
忘れ物はないですか? 冥土のおみやげ!
市場街TVの目玉は、400年以上の歴史を持つ伝統産業、高岡銅器・漆器の各工房から配信される「高岡クラフツーリズモTV」。番組内で流れるラップミュージックは、なんと職人たちが歌う(!)高岡伝統産業青年会(以下伝産)のオリジナル。
チャンネル名は「冥土のお土産チャンネル」、期間限定webショップは「スーベニ屋」、ゾンビメイクを施した撮影スタッフは蘇ったご先祖様による「撮影狂(クルー)」と、とにかく設定が凝っている。「伝統」と名指される産地のイベントが、ここまで振り切って「ふざけた」ことって、あっただろうか?
「高岡銅器=全国シェアNO.1の仏具」を逆手に捉えて世界観をつくってしまう諧謔(かいぎゃく)精神には、江戸時代からの職人の街である、ご先祖様の心意気が確実に継がれている。
もちろん、配信されるメインの内容は全くもってふざけていない。たとえば、鍛金職人である藤本さんと着色職人である野坂さんによる「クラフツーリズモTVvol.2」では、藤本さんがつくるケイス(おりん)を野坂さんが着色する、産地の分業システムについて紹介。
そうした中にも、元は問屋だった藤本さんが取引先に婿入りする形でケイス職人になったエピソードや、最近youtuberになったという野坂さんの話など、ほっこりニヤニヤしてしまう身近な話題が差し込まれる。
「僕は元料理人なんですけど、伝産のなかにはゲーム会社で働いてた人もいたり、いろんな仕事を経て職人になった人が多いんです。だから今年の全配信という状況も柔軟に取り組めたんじゃないかな」と野坂さん。
野坂さん、藤本さんともに、職人の手元を3時間映し続ける「定点観職」にも出演。解説は一切無し、ひたすら職人の手が動き製品が完成していく画面には、吸い込まれるような心地よさがあった。
職人の視点や、ものづくりの時間が“丸ごと”体感できる、画期的な視聴体験。個人的に、市場街TV全コンテンツの中でもイチ押しです。
とにかく多彩で粒揃いなコンテンツが揃う、市場街TV。どの番組も永年視聴可能なので、リアルタイムを逃した方にもぜひご覧いただきたいのだけれど、ここまでやってきていかがでしたか?実行委員長の國本さん!
「オンラインテープカットで画面に映された全国の高岡ラバーズの顔を見た時に、感極まりました。これまでの9年間でクラフト市場街がつくり上げてきた集大成なのかなって。市場街はモノも生み出してるけど、いろいろな人と高岡の絆を深めてきたイベントなんです」
2011年からはじまった同イベント。開催を重ねる中で少しマンネリ感も出てきていたのが、「オンライン配信」によって新しい可能性が開けた手応えがあるという。
「新しい才能が開花した感もあるし、オンラインという術を持ったことで、届けられる人が増えました。今年の経験は来年以降にもすごく活きていくんじゃないかな。「冥土のおみやげ」なんて他の伝統産地だったら怒られそうだけど、俺が責任持つから、やっちまえって。笑」
そうした度量の広さ、気っ風の良さゆえか、高岡クラフト市場街にはお客さんでいるだけでは飽き足らず、作る側に関わりたくなる人も多いそう。
「関わり方が増える意味でも、オンラインて凄く良いツールだって思いました。オンラインテープカットの出演をお願いした時の、高岡ラバーの皆さんの高揚感といったら!コンテンツがずっと残り続けるのも良いところなので、ぜひ今後は高岡に来る予習につかっていただきたいです」と広報担当の五来さん。
今年の市場街の準備は、配信の勉強会から始まったという。制作会社に頼らないDIY配信を技術的に支えたのは、産学連携・プロジェクト授業の一環として関わる副実行委員長・富山大学芸術文化学部(以下芸文)の有田先生と学生たち。職人へのインタビュー「9Q」は企画・撮影・編集まで学生主体で行われ、やオンライン通販番組「コトコトショッピング」では地元女性デザイナー3人と共にアテレコや商品撮影・編集などを担当した。
「先人たちの素晴らしさを真似する以上の、別のアプローチで表現できる世代が登場したって印象を持っています。伝統産業に抱くイメージが、僕らと若い世代では違うんですよね。古いって感覚がなくて、新しいものとして響いてる。今、すごく大きな転換点が来てるんじゃないでしょうか」
市場街でひとつの大きな存在感を放っているのが、芸文の学生や卒業生たちだ。今年唯一の実地開催となったグループ展「高岡で澄む」の出展作家兼キュレーターの畦地さんも、芸文を卒業後、高岡で作家活動を続けている。
「僕は京都出身で、京都にも職人さんはたくさんいるんだけど、身近じゃないんです。高岡の、飲みにいくと職人に会うみたいな繋がりは良いですね。街にクラフトっていう生活に馴染むものがあることで、僕たちが表現したいものが生活に入り込んでいくイメージが描ける、土台があるとも感じます」
ビルの経てきた時間の手触りが残る空間をさらに変容させる、畦地さんの乾漆によるオブジェ。作品の力にドキっとしながら、現実の鑑賞体験てやっぱりいいなとも実感する。
漆芸、油絵、彫刻、アクリル絵の具、鉛筆、金属、、、様々な素材を扱う7人の作家たちは、全て芸文の卒業生と在学生。例年であれば市場街が実施されるメインストリート「山町筋」にある西繊ビルの4階で、壁のひび割れや床材を剥がされた床の質感が、個性豊かな作品をのびのびと受けとめていた。
さて、市場街TV一番の見どころはやはり職人。「クラフツーリズモTVvol.1」で繰り広げられたのは、彫金職人の和田さんと着色職人の川津さんによる、「オタク文化と工芸」の話だった。
和田さんは自身が伝産の会長だった年に、「高岡オタクラフト」というオタクの素養のある職人を20名ほどあつめた組織を結成。
富山のアニメ製作会社P.A.WORKS公認の「クロムクロ」フィギュアや、「グレンラガン」の鎧兜を作成するなど、高岡ならではの鋳造技術をいかしたコラボレーションアイテムを作成し、ビジネスの場を広げながら、アメリカのアニメイベントに出展したり、ワンフェスに出展したりと、一風違った角度からの産地振興を行なっているそう。
ちょっとした小芝居やツッコミを交えながら軽快に進む、オタクと工芸を巡る考察。内容はもちろん、お二人の佇まいがなんとも魅力的なので、ぜひ動画を観てみてほしい。ひとくちに職人といっても、仕事の内容もキャリアもほんとうに多様なのだと、同時代を生きている親近感が湧いてくる。
かつては歌舞伎だって下世話なドロドロ愛憎劇のサブカルチャーで、浮世絵は役者のブロマイドだった。今となっては「伝統」と呼ばれる仕事にも、ワイワイとノリでつくられたものもあったんじゃないか。とにかく楽しそうな伝産の人々に、伝統の礎となったご先祖様の姿が重なる(実際のご先祖様のことは知らないけど!)。そしてそのノリの中から、また新しい、思いも寄らない展開が広がっていくんじゃないだろうか。
それにしても和田さん、さすがオタクだけあって(?)動画配信に慣れてませんか?
「どうしたら配信を楽しんでもらえるか考えて、今回の内容構成とか、ゾンビメイクとかの設定が出てきました。でもやっぱり本心は、実際に来て、体験してほしい。番組配信を高岡に行くきっかけにしてもらえたら」
たしかに様々な配信の現場にうかがって感じたのは、何よりもそれぞれの人の魅力だった。画面を通じて魅力的な人は、実際に会うときっとその何倍もチャーミングだ。来れば会えるのが、例年の市場街&クラフトツーリズモの醍醐味でもある。
ということで、市場街TV全アーカイブで予習をしてから、来年はぜひ実地の高岡クラフト市場街へ!
<開催概要>
期間/2020.10月17日(土)~25日(日)※番組は継続して視聴可能
配信会場/高岡市内各所
主催/高岡クラフト市場街実行委員会
籔谷 智恵(ライター)
神奈川県藤沢市出身。慶應義塾大学環境情報学部卒業。「人の手が持つ力」を知りたいと重要無形文化財「結城紬」の産地に飛び込み、ブランディングや店舗「結城 澤屋」立ち上げなど活性化に奔走する。結婚後は札幌で1年間暮らし、富山へ移住3年目。現在は今後の住まいとする県西部の田んぼの中の民家をリノベ中。今一番興味があるのは人類学。http://chieyabutani.com/