工芸の新たな楽しみ方を提案するWEB MAGAZINE。
作り手やアーティスト、北陸で暮らす人たち。
様々な角度から工芸の魅力をお届けします。
「ロングライフデザイン」をテーマに掲げるストアスタイルの活動体「D&DEPARTMENT PROJECT」。ディレクターのナガオカケンメイさんは世田谷区奥沢の本店オープンから20年を経た今、これからの在り方を模索しているといいます。デザイン部門を独立させ店舗としても準備中の東神田の事務所にて、工芸に感じる可能性と、今後の展望についてお話をうかがいました。
——今若い人の地方での活躍がみえるようになってきたり、リノベが一般的になったり、ナガオカさんがこれまで「ロングライフデザイン」という言葉で掲げてきたことが浸透していると思うんですが、活動してこられた手応えはいかがですか。
手応えはありますが、同時に役割を終えたことも感じています。もうD&DEPARTMENTは終わってるんです。そういうお店はいっぱいあるし。
物を大切に長く使おうとか、「つづく」についてデザイン系の学生が卒論で挑むとか、「つくらない」キーワードはみんなの中に芽生えて、すごくいいなと思うんですけど、じゃあ「どうやってつくらないの」とか、「つくりたいけどどうしたらいいの」って時代にきている。
僕はもうほんと、やめようとも思ったんですよ。でも富山で民藝に出会ってしまって、やめるのもいいけど、新しくものをつくるとしたらどういう感覚が理想的なのかリサーチしてるうちに、「祈りのデザイン」があるって気づいた。これみんな知ってるかなあ?じゃあ展覧会してみよう、というのが今です。
これから先は、自分たちどうすんのって感じですね。何でもネットで買えるようになって、ロングライフデザインをセレクトして家賃払って人件費払って販売するのはもう無理なので。路面店て何なの?人が集まる場って何なの?これは全国の路面店に共通のテーマだと思います。
——そんななかでも、ナガオカさんが育った街、愛知県阿久比(あぐい)町にできるd newsの展開があります。宿泊の設備があって、dがホテルをやりますということではなくて、d newsに期間限定で行商や楽器の演奏やカフェをする人が集まってくる、「メーカーズレジデンス」という。
これは僕は、わからないんでやってるんですって言いたい。
僕の友人には、もう家を借りないでシェアハウスを渡り歩いてるような子が何人もいます。前向きな住所不定の人が出てくる中で、その土地に昔からあるものとの接点をどうつくっていくか。東京にエネルギーをつかって集める時代は終わりました、日本中のすばらしいものが生まれている土地に行こう、でも生活しないといけないから、自分の特技を披露しながら、昔からあるものと紐づいていけたらいいなというのがd newsです。
ただ、それがビジネスになるかどうかはもう全くわからないですね。計算して経験を積んだうえで次はコレだー!みたいに思われているかもしれないですけど、うまくいくかなあってドキドキしていて。
だからクラウドファンドしたんです。どう思う?って感覚で。集まらなかったら、そうだよねえ、違うよねえごめんねえって。でもすごく支持していただけたので、お前つくってみろって言われてるんだと思って、全力でやります。
トラベル誌を不定期刊行物に切り替えたのも、これまでと同じつくり方だと成立しないからです。これまでは、つくるとなったら一度に大量に刷らなければならなかったけど、そのつどクラファンして、リターンを本にするやりかたに切り替えました。500部で一冊5,000円とか、価格がかわることもあるだろうけど、はじめから見えている、欲しい人の分だけつくっていくようなことを考えています。
——それは外部の人が、お店や本が形になるところから関われるということでもありますよね。買い物は投票ということの、もっと先鋭化した在り方というか。
店の方向性としては、会員制にしてどんどん閉じていこうと考えています。
タバコのポイ捨てによって喫煙者が追いやられたり、駐輪マナーが悪くて自転車が追いやられてるのと一緒で、消費者のマナーが悪くて粋なお店がどんどんなくなってる。クレームが怖くなって、冒険しなくなって、注意書きの張り紙が店内に増えていって…そんなの悲しいですよね。
だったらもう、ここは店じゃない!って。お客さんだけど神様じゃない、店と客は対等だからねと、そういうお店をつくりたいなと。
——ナガオカ日記には「原点に帰る」という言葉もありました。
2000年にdの店舗が立ち上がった時に、僕はお客さんに合鍵を渡そうと思ってたんです。私はあなたの店の管理人で、店員じゃないと。だからあなたの責任下で自分のお店だと思って出入りして、トイレが汚かったら掃除もして、くらいの感覚で。スタッフにそれはあかんでしょ、と反対されましたが。
紙袋を持ってきてもらって再利用するショッパーはその名残ですね。アメリカのコミニティストアや沖縄の共同売店みたいな、みんなでお店を維持しよう、シェアしよう、そこに生まれる地域性みたいなものがいい。
初心には、駅から何分歩こうが立地なんかどうでもいい、わざわざ歩いてきてもらうっていうお店側の覚悟がありました。お客さんに何言われようと、『だったらこなくていいよ』と言える、その状況をつくりたいんですね。それには大きいお店だとできないので、お店を小さくして。ここ(東神田)の新しい事務所兼ショップも、そのための実験場です。
ごく限られた人しか来ない店の中で、そういう関係だからできること、ツケで食べさせたり、もの預けたり、貸したり、ちょっとごめんお昼食べてくるからレジやってくれる?みたいな、そういう『居心地』がつくれたらいいなと思いますね。
——活動はこれからも続いていきますよね?
はい。やっぱりものをつくりたいし、「新しい」っていうことに対しても、すごく興味はあるので。めんどくさいって言いながら人にすごく感心があるし、それから僕は、デザインていう概念が好きなので。
デザインて言葉の意味が変わってきているのはすごく楽しいですね。「外国のスターデザイナーがデザインした歯ブラシ」というだけで買っちゃう時代を経て、確実に伝統工芸がデザインて言葉に変わってきている。
それがおもしろくてワクワクするし、消費・利潤追求型のデザインがデザインて呼ばれない時代、になったらいいなーと思いますね。
人口増加と経済成長による拡大社会の中で、私たちはすっかり与えられる一方の「お客さん」でいることに慣れてしまった。でもこれからの縮小社会、同じ態度でいては身の周りのものはみるみる崩れていくように感じられるかもしれない。
大事なことはおそらく、使い手が同時につくり手でもあるようなあり方。そして、人間だけじゃない、その土地に長く伝わってきたもの、背景にある大きな自然や歴史とも、一緒にやっていくこと。そこであらためて必要になる思想が『民藝※』であり、ものは『祈りのデザイン』から生まれるといいな。ナガオカさんがいうのはそういうことなのだと思う。
消費者から、つくり手と店と使い手となだらかにつながり、暮らしを共につくっていく生活者へ。その暮らしにはきっと、その土地ごとの個性と歓びがある。
インタビューの2日後に、dの本店・本社機能の世田谷区奥沢からの移転が発表された。しかも移転先は未定、物件情報を募集しているとのこと。これはつまり誰もが、dの本店を自分の知っている場所、生活圏に誘致できる可能性があるということだ。
これからdがどうなっていくのか。そのかたちの一部を成すアクションは、私にもあなたにも開かれている。
PROFILE
ナガオカケンメイ
デザイン活動家。すでに世の中に生まれたロングライフデザインから、これからのデザインの在り方を探る活動のベースとして、47の都道府県にデザインの道の駅「D&DEPARTMENT」を作り、地域と対話し、「らしさ」の整理、提案、運用をおこなう。’09年より旅行文化誌『d design travel』を刊行。’12年より東京の渋谷ヒカリエ8/にて47都道府県の「らしさ」を常設展示する、日本初の地域デザインミュージアム「d47 MUSEUM」を発案、運営。’13年毎日デザイン賞受賞。’19年よりロングライフデザインのマーケットを、つくり手・売り手・使い手の垣根を越えて応援する会員誌『d LONG LIFE DESIGN』を刊行。’20年夏にはD&DEPARTMENT初の宿泊機能をもつ拠点を韓国チェジュにオープン。
籔谷 智恵(ライター)
神奈川県藤沢市出身。慶應義塾大学環境情報学部卒業。「人の手が持つ力」を知りたいと重要無形文化財「結城紬」の産地に飛び込み、ブランディングや店舗「結城 澤屋」立ち上げなど活性化に奔走する。結婚後は札幌で1年間暮らし、富山へ移住3年目。現在は今後の住まいとする県西部の田んぼの中の民家をリノベ中。今一番興味があるのは人類学。http://chieyabutani.com/