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2020.11.13

「くたばってたまるか。」の言葉の先に
RENEW 2020 体験レポート&舞台裏インタビュー

2015年から始まった6回目となるものづくりの祭典「RENEW」。

コロナ対策を整え、オンラインコンテンツを新しく追加しながら、現地開催も踏み切ったということで、今回は前半の現地レポートに加え、後半では運営の裏側についてもインタビューを敢行した。窮地に立たされながらも力強く前に進む産地の様子をお届けする。

  • RENEWの総合案内所である鯖江市河和田地区にある「うるしの里会館」。年に一度、この場所を中心にRENEWの象徴である「赤丸」で埋め尽くされる。

プロダクトデザイン、拠点開設、オンラインコミュニティ…
「RENEW」が伝える産地の更新力

 

越前漆器の産地である鯖江市河和田地区を中心として始まった「RENEW」は、今では越前漆器、越前和紙、越前打刃物、越前箪笥、越前焼、眼鏡、繊維の7つの産地から、76ヶ所もの事業所が参加し、拡大と更新を続けている。

福井の工芸の産地が集積する丹南エリアを可視化し、繋ぎ合い、人の流れを確実に作り出している「RENEW」は、毎年一度の気合の入ったまさしく「祭り」。福井県にとっても欠かせないものとなった。

今年2020年はコロナウイルスという災禍に見舞われながらも「くたばってたまるか。」を合言葉に、10月9日から11日の3日間にわたって現地開催に加えてオンラインコンテンツを実施。来場者は約32000人。各会場ではワークショップや工房見学、トークイベントなども行われ、この時期だからこそ話せるリアルな言葉が飛び交った。

今回取材班は、特にプロダクトデザイン、新しい拠点の開設、オンラインコミュニティなど、コロナ禍においても力強く更新をし続ける3ヶ所を訪問した。

唯一無二の佇まいに触れる「ろくろ舎」

  • 会場から近いこともあって、ひっきりなしに参加者の方が訪れていた。スタッフ3人で交代で案内を実施。

私たちがまず向かったのは、RENEWの総合案内所である「うるしの里会館」から徒歩5分ほどの場所にある「ろくろ舎」。木地師職人の酒井義夫さんを中心に、木地を製作している工房だ。

  • 工房とギャラリーが一緒になっており、じっくりと自分だけの椀を選ぶことができる。

だが、ろくろ舎はただの木地工房ではない。木の器はもちろん、経年劣化を楽しめる「Timber Pot」、製作過程で生まれる廃材を使ったアクセサリー「SOU」、型と仕上げを自分好みにカスタムオーダーできる「オンリー椀」など、まるで発明工房のように様々なアイデアと形に満ちている。コロナによって急激に社会が停滞する中で、移動式工房「ろくろ車」を発案し、職人の中でいち早くクラウドファンディングを立ち上げたのも彼だった。

そして、やはり最も注目したいのは、一つ一つの表情と個性が違う「椀」である。その佇まいといい、お椀に「かっこいい!!」とつぶやいてしまったのは初めてだ。せっかくなのでお気に入りの椀を一つ選び、取り置きをしてもらうことにした。

「コロナを理由に参加を止めてもよかったかもしれないが、それだけは嫌だった」という酒井さん。コロナという災禍がなくても、いつでも舵を切って新しい風を取り込む準備ができているのだと感じる。

  • 飄々とした佇まいの酒井さん。会えると嬉しくてついつい「よしおさーん!」と声をかけてしまう。

包丁の柄と蒔絵の融合「柄と繪」

  • 9月末にオープンしたばかりの「柄と繪」は、ベンガラ色の落ち着いた雰囲気のギャラリーは、山本さんご夫婦が中心となって運営している。建物は福井の建築会社「ヒャッカ」のデザイン。

  • 山謙木工所の柄を使用している打刃物職人の手による和包丁がずらり。実際に手にとって見ることができる。

次に向かったのは、越前市の南に位置する越前打刃物の里。総合案内所がある河和田地区からは、車で30分ほどのところだ。この地域には、包丁や鎌などの生活の刃物の工房が集まっている。

その中で、包丁の「柄」を専門で生産している山謙木工所が、新しい試みとして倉庫を併設したギャラリー「柄と繪」をオープンし、RENEWに合わせて工場見学ができるということで参加した。

  • 機械と手作業の折衷によって生まれる良質な柄は、打刃物職人からも一目置かれている。

包丁の柄というと、一見地味な印象を受けるが、いやいやそんなことはない。包丁の刃は柄がなくては切ることはできず、その品質や性能がしっかりしていなければ、繊細な料理さえ作り出すことができないのだ。

なぜ、ギャラリーの名前に「繪」があるのかというと、蒔絵職人である山本由麻さんがこの山謙木工所のファミリーとして加わったから。彼女の蒔絵技術を活かしたコラボレーションが期待できる。

実際に、コロナの時期と建設が重なり、この迷いもあったそうだが、全国的に見ても包丁の柄が中心となる拠点は類を見ない。今だからこそ開くべきという思いが、「良いんじゃない」と背中を押してくれた打刃物職人さんにも伝わっているようだ。

  • 「山謙木工所」と「柄と繪」を山本さんご夫妻(右 山本卓哉さん、左 山本由麻さん)。打刃物の産地の新しいコンテンツとして、職人たちをつないでいく場所となるだろう。

山本由麻さん コメント

今年から初めて参加したので、例年の状況はわかりませんが、「柄と繪」にお越しいただいた方が、「作り手さんのために何か買って帰ろう!」という支援の気持ちがあるように感じました。来年は、できれば実際に包丁を扱うワークショップなどを企画して、越前打刃物の切れ味・山謙木工所の柄の重さや持ち心地を体験してもらえるプログラムをやってみたいと思います!

脈々と受け継がれる技術とアイデア「長田製紙所」

そして、最後に伺ったのは、打刃物の産地からさらに車で東へ20分のところにある越前和紙の里である今立地区。奥に神殿のある「紙の神様」を祀る大瀧神社の大きな鳥居をくぐってたどり着くのが、1909年創業の「長田製紙所」。

この地域ではあちらこちらに越前和紙の製造所が立ち並んでいて、静かな山間部の中にで職人さんたちが熱心に和紙を製作している。

コロナ禍でいち早く動きを見せたのが、この長田製紙所も参加する越前和紙のチームが開いたオンラインショップ「ワシマ」だった。受注が減ってしまう現状を何とかしたいと、和紙会社が賛同してオンラインショップを立ち上げ、SNSによって拡散。思った以上の成果を上げたようだ。

  • 伝統工芸士の長田和也さん。和紙の原料に銀箔を混ぜ込んだものを絞り出すことで、和紙を形作る。写真は唐草模様。

  • 淡い光にふわっと浮き出る雲の模様。まだ電気のなかった時代、この和紙をろうそくの下で眺めていたのだと思うと、心にグッとくる。

私たちが飛び込んだ時は工房ツアーの真っ最中。長田さんが解説しながら、手早く和紙の模様を作っていく様を「おお〜〜」という感嘆の声を上げながら見学していく。

  • 襖などの模様のために伝統的に使われている「山並」の型。この金属の型も自分たちでササっと作ってしまうのだとか。

  • カラフルなオリジナルの和紙封筒。私は個人的にも長田製紙所さんのファンで、お手紙を書く時はいつもこちらのポストカードセットを使わせてもらっています。

工房をくまなく見学させてもらいながら、併設されるギャラリーとショップもチェック。今回は以前からほしかった揉み紙イヤリングをゲットしました!参加者の中にも、手に手に好きな和紙グッズを手に取り買っていく人が多数。

  • 長田和也さん・泉さん親子。和也さんが「二人で撮ってもらうなんて何年振りかな〜」なんて照れていらっしゃったのが印象的。和紙の1500年の伝統はこうして一人一人に受け継がれている。

長田さんコメント

今年はいつも以上にお客様の数が多かったです。毎年のことながら、ものづくりに対する興味がある人がたくさんいることを改めて感じます。今後も普段の仕事に向き合いつつ、新しいものも提案していきたいと思っています。

更新し続ける「RENEW」と産地のものづくり

 

そして、現地取材の後、RENEW開催から2週間以上が経過した。コロナの感染者はゼロという結果を持ってようやく「終わった」と言えるが、ここからはRENEWの裏側ではどのようなことが起こっていたのか、運営に関わる新山直広さんと森一貴さんのインタビューをお届けする。

 

RENEWのメンバーは、コロナをどのようにそれを捉え、対処し、開催に踏み切ったのだろう?

  • RENEWの発起人、そしてRENEWのアートディレクターを務める新山直広さん。毎年コンテンツを更新し続けている。

  • 開催当初から事務局長として運営スタッフを牽引してきた森一貴さん。2021年には福井を発ち、フィンランドへの留学が決まっている。

中止の心配より、「ワクワク」が募る会議

 

–まずは、RENEWの開催、お疲れ様でした。今回は「くたばってたまるか。」を合言葉に、例年以上に気合の入った3日間だったようですが、開催に至るまではどのような感じで進んでいったのですか?

 

新山「今年のRENEWの会議は緊急事態宣言が出たばかりの時期に始めたんだけど、不思議とみんなから中止しようという言葉は出なかったですね。オンラインでの実施は早々に決まって、現地開催についても6月には宣言してたよね」

 

森「そうですね。最初の会議の時にはもうすでに「RENEW TV」のようなオンラインコンテンツや「RENEW LABORATORY」のような企画が立ち上がっていました。みんなどこかワクワクしていて、この産地のみんなが全員zoomを使えるようになろうみたいな今だからこそやれることに注目していたので」

 

新山「『RENEW』という言葉自体が生まれ変わるとか更新するとか、そういう意味合いが強かったし、産地のものづくりそのものが様々な危機をサバイブしてきたからこそ続いているわけで。コロナというきっかけでむしろ逆にチャンスだ!っていう捉え方の方が強かったかな」

  • 「RENEW TV」としてオンラインコンテンツも充実。「商い」「デザイン」などものづくりの周縁のテーマから、鯖江市長とのトークまで貴重な時間となった。

  • 新進気鋭のデザイナーと製造所がタッグを組み、4ヶ月にわたって事業化を試みた「RENEW LABOLATORY」。コロナ以降の新しいコンテンツとして会場を盛り上げた。

徹底して、今できることをやる

 

–取材中、現地開催の方も参加者の方々から「楽しかった」「来て良かった」というリアルな声をたくさん聞くことができました。今回の開催でどういった手応えがありましたか?

 

新山「僕も例年以上にポジティブな感想をもらえたなと実感しています。ちょうどコロナの影響で自粛していたところでようやくちゃんと開催されるイベントだったので、参加者の方も『やっとイベント来れた!』みたいな開放的な気持ちがあったのかも。その表れなのか、各ブースの売り上げがとても良くて。出店者側からも『出て良かった!』という声をたくさんもらいましたね。行政の方も開催宣言をした時には『よくぞ決断してくれた!』と前向きにお手伝いいただけたりして」

  • 中小規模の作り手をメインとした19組がずらりと並んだ「ててて往来市 TeTeTe All Right Market」。木工や織物、器、食品などなど、生活の中のものづくりが一堂に会した。参加者の財布の紐もゆるみ、1店舗あたりの売り上げは好調だった様子。

  • イベント自粛中止が続く中、リアル開催を決めたRENEWでは、待ちに待ったという参加者が募った。フードコートでは列の途切れないスイーツブースや、山うにラーメンなどのご当地メニューなどでにぎわった。

森「規模は縮小しているように見えるけど、実際には今年始めて立ち上げた企画ばかりで、例年の倍以上の作業量だったんですよ。コロナの感染予防対策についても徹底していたので、どのような対策を講じているのか外部からの視察もあったみたい。楽しめるコンテンツを維持しながら、感染症対策もしっかりやる。その結果、参加者から『コロナ対策がきちんとしていて安心してまわれた』という声をもらったのは嬉しかったですね」

 

新山「当日開催に向けて産地のネットリテラシーを上げようという目標を掲げて、オンラインショップを持っていない工房や事業者さんに『やるなら今しかない!』と声をかけて勉強会もやりました。slackが使えるようになったおじいちゃんがいたりもして、最終的には8社のオンラインショップが立ち上がって、これからどう動くかが楽しみですね」

  • 今年誕生した「あかまる隊」は、会場案内や運営、SNS広報に至るまで、自分ごととしてRENEWを動かして行った。産地の厚みを増す「関わり代」が一気に増えたようだ。

「じゃない人」が作り出す産地の厚み

 

–来年は、開催当初から事務局長として動いていた森さんが外れてしまうわけですが、体制としてはどのように変わりそうですか?

 

*森さんは2021年にフィンランドへの留学が決まっている。

 

森「『あかまる隊』を立ち上げたことは、今回のRENEWにとってすごく良かった。とにかく準備と撤収が爆速だったし、これまで僕が一人で抱えていたことを分けて拡散できた。もっと早くやっとけば良かったなと思うぐらいで。むしろ、これからは全然違うカラーを出していくのが楽しみですね」


 

*あかまる隊=RENEWの企画や運営を担うサークル。工房の取材やコンテンツ企画、SNS運用など、事務局からの依頼仕事ではなく、主体的に関わることでRENEWの動力的役割を担っている。

 

新山「森くんって、ものづくりに関係のない人の代表だったんですよ。僕らはそれは『じゃない人』って呼んでるんだけど、ものづくりの厚みは、伝統工芸そのものだけでは作り出せない。日々のものづくりに関わらない人も入っていく余地を作ることが大事だと思ってます。だからこそ、RENEWを軸にして様々な関わり方ができる人たちが集まれば、まちの武器、厚みになっていく。ものづくりの周縁がかためられることによって、レベルも上がっていくんじゃないかな」

 

お二人の話を聞きながら、「RENEW」が単なるイベントではなく、人も物も事も、そして地域も動かすムーブメントになっていることに気づく。コロナという危機は、長い目で見ればチャンスだし、そういう曲面を幾度も乗り越えてきた産地としての経験値が可視化されたような、そんな3日間だった。「くたばってたまるか。」という言葉の前にも、そしてその先にも、関わり合う人々の熱と波動を感じ、まだまだ広がりを見せていくのは間違いないだろう。

 

<開催概要>

RENEW
期間/2020年10月9日(金)-11日(日)
会場/福井県鯖江市・越前市・越前町全域(総合案内 うるしの里会館)
主催/RENEW実行委員会
問合せ/RENEW実行委員会
URL/https://renew-fukui.com/

佐藤実紀代(ライター)

1981年、福井生まれ、北陸育ち。おとなりの金沢大学でフランス中世美術(主にロマネスク様式とタピスリ『一角獣と貴婦人』にハマる)を研究。卒業後、印刷会社、書店、デザイン事務所を経て独立。DTPスキルと本への偏愛を活かし、福井駅から徒歩3分の場所に本をつくる小さな本屋 HOSHIDOを構える。2019年に福井の伝統工芸である若狭塗箸の職人の本『はしはうたう』を出版、絶賛販売中!!