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2020.10.06
2020年9月19日(土)〜22日(祝・火)の4連休に、GO FOR KOGEIの呼びかけで、北陸3県の16工房で作家や職人に出会う工房見学&制作体験プログラムが開催されました。
工房での現地開催された見学・体験イベントとともに、今回は新型コロナウイルスの感染拡大予防ということで遠方から参加できない方のためのオンライン企画も登場。普段は足を踏み入れられない”ものづくりの現場”を、間近で見る、肌で感じることができる特別な4日間となりました。
1875年(明治8年)創業。手漉きと機械漉き両方で制作を行い、手漉きでは襖紙や創作和紙、ちりめん状のしわがある高級和紙「檀紙(だんし)」の襖判を日本で唯一製造できる越前和紙の工房です。機械漉きでは「鳥の子」をはじめ、色物から手漉きの技を活かした模様紙、美術小間紙まで幅広く製紙しています。
工房見学では質感や色合いの違う様々な和紙のサンプルを見て、触って体感。襖用の大判和紙を手漉きする様子や、水流や水滴を使って和紙に模様を描き出す手法など、職人技の粋と、伝統技術に新たな感性を加えた和紙づくりを間近で見学することができました。
和紙を漉くには、水と繊維とネリが必要です。そのうち「ネリ」というのはトロロアオイというオクラ科の植物の根を叩いて、水につけ置き、取り出した粘液のこと。「ネリ場」でトロトロの粘液を取り出す様子に参加者も興味津々。
紙の原料を煮る「窯場」、煮た木の皮の繊維を水にさらして繊維のかたい部分などを取り除く「チリより」を行う「川」と呼ばれる水仕事をする場所や、原料を水と一緒に叩解する機械、襖紙や大判和紙を漉く「漉き場」、漉いた紙を板張りにして乾かす「張り場」を解説付きでぐるりと見て回りました。工房の入口にあるギャラリー&SHOPでは、襖紙に膠(にかわ)を揉み込んで作られた揉み紙を使ったカードや名刺入れなどの小物が販売され、木漏れ日のような光に心癒される手漉き和紙のランプなども魅力的でした。
この模様、どうやってできているかわかりますか? これは金属の型版に和紙の原料となる楮(こうぞ)や三椏(みつまた)などの繊維を付着させ、地紙に漉き合わせる伝統技法「引っ掛け」で描き出されたものです。まさに名前の通り、型に和紙の繊維を引っ掛けて転写するイメージです。
ふわりとなじむ自然な輪郭や光沢が優しく美しい。襖などに使われる技法で、職人さんはもっと大きくて、複雑な模様の和紙を漉いています。工房には代々伝わる様々なデザインの型があり、修理をしながら今も使われているそうです。
越前和紙の産地・大滝を訪れると独特の香りがします。「この香りは何ですか?」と聞くと、「和紙作りに使う”ネリ”ですよ。トロロアオイという植物からできています」と、ネリの入った水槽を見せてくれました。
山次製紙所はお酒のラベルに使う小さな和紙を得意としている工房。お酒のラベルを作る和紙漉きの様子や道具、毎年カレンダーを作っている金型を使った引っ掛けの技法も見学しました。この日は昔ながらの自然乾燥も行われていて、楮(こうぞ)や三椏(みつまた)、トロロアオイなどの植物から和紙が作られる過程や、越前和紙の歴史を学ぶことができました。オリジナルの色鮮やかな茶筒や小箱などが並ぶギャラリーSHOPも見応えがありました。
ここでは色鮮やかな和紙のカードに、活版印刷でメッセージを刷るワークショップが投げ銭で体験できました。色とりどり、そして全て柄が違う和紙カードから好きなものを選んで、活版印刷のプレス機にセット。
ちょっとズレて曲がってしまっても味がある。和紙の持つパワーに、手作りが加われば魅力倍増。心を込めてプレスした「THANK YOU」のメッセージ入りカードは、誰にプレゼントしようかな。
漆は英語で「JAPAN」というほど日本を代表する伝統工芸です。毎朝お味噌汁をいただく日常使いのお椀から、蒔絵をほどこした美術品まで、身近でありながら奥が深い漆の世界。
1793年(寛政5年)創業、8代にわたる越前漆器の塗師工房「漆琳堂」でうかがったのは、代々受け継がれる「塗師の手仕事」について。工房を見学しながら語られる漆器製造の過程や歴史、産地のお話しに引き込まれてしまいました。漆の朱色と黒色のこと、塗師が一番大切にしている塗師屋包丁のこと、空気に触れて変化していく生漆の様子。産地で職人さんと直接お話をすることでしか知り得なかった発見です。
「大学進学で一人暮らしを始める私に、福井出身の母が持たせてくれたのは越前打刃物の包丁。今日の研ぎ直しワークショップで抜群の切れ味に蘇りました。お手入れ方法も教わったので、ますます大切に使い続けたい」と参加者のAさん。
「山田英夫商店」は、700年の伝統を持つ越前打刃物の産地で、職人が仕上げた包丁に柄を付け、ヒズミの調整や名入れをして商品に仕上げる問屋の仕事をしてきました。店内にはさまざまな包丁やナイフ、ハサミが並びます。包丁の名入れサービスもあるので、手頃で使い勝手のいいものから、一生もののマイ包丁を探している方にもオススメです。
「KISSO」は、眼鏡の素材や機械などを扱う会社が2010年に立ち上げたオリジナルアクセサリーブランド。発色が美しいアセテート材を重ねたり、加工してオリジナルの指輪やブレスレット、おしゃれな耳かきなどを製造販売しています。
今回のワークショップは、倉庫の中に眠る役目を果たした素材サンプルをバングルにするというもの。まずは、メガネの形になっている大量のサンプルから、自分の好きな形や色を見つけます。ゆっくり熱を加えてクニャリと曲げて、自分の手首にぴったりのバングルに。サンプルのバリエーションが豊富で、作るよりも選ぶ方が時間がかかる!?楽しい体験でした。
「上出長右衛門窯」で毎年5月に行われるイベント「窯まつり」が、今年はコロナの影響で9月の開催に。今回、GO FOR KOGEIでは「窯まつり」の会場から、公開トークセッションと、上出惠悟さんの案内で9月20日・21日に各1回・完全予約制で少人数の見学ツアーを開催。それをYouTubeライブで配信しました。
GO FOR KOGEIの企画で実現した、上出惠悟さん×瀧英晃さんの「KOGEI トークセッション」は、九谷焼と越前和紙を家業とする家に生まれ育ち、後継者として、作家として、活躍の場を広げる気鋭の二人の初対談。これは必見です!
■KOGEI トークセッション 上出惠悟 ×瀧英晃
〈出演〉上出惠悟(九谷焼/上出長右衛門窯) / 瀧英晃(越前和紙/滝製紙所) / 高山健太郎(聞き手/ノエチカ)
※九谷焼の窯元・上出長右衛門窯にて撮影
■上出長右衛門窯 窯まつり オンライン見学
案内人:上出惠悟
※上出長右衛門窯(石川県能美市)で撮影
1914年(大正3年)に創業した窯元で、百年以上にわたり日々置物の生産を続けています。現在の主力商品は、招き猫やふくろうなど縁起物で、他にも季節商品として干支や雛人形等を生産しています。
それらは「排泥鋳込み」の技法で作られます。今回のSTUDIO TOURでは、排泥鋳込みの見学と体験があり、石膏型を組んで泥しょうを流し込むところから、釉薬を掛けるまで、製品が実際に出来るまでの工程を見学・体験しました。歴代制作されてきた、通常非公開の型なども見学しました。
石川県小松市にある九谷焼上絵付の窯元。1906年に初代吉田庄作が開業して以来、九谷焼の様々な技法を受け継ぎ、約110年間作陶を続け、なかでも得意とするのは金彩の技法です。
ギャラリーに名付けられた「嘸旦(むたん)」の意味は、音のない始まり。そして、無我の創造。ギャラリーは展示された作品だけでなく、静謐な石蔵の空間そのものがアート。その空間で体験する、金箔を使った金襴手のワークショップは創造性が触発されます。
浅蔵五十吉深香陶窯は、素地作り・加飾ともに様々な技法を得意とする工房です。大正初期、石川県小松市に初代・浅蔵磯吉が素地作りの工房を開き、二代・五十吉(与作)が「浅蔵カラー」と呼ばれる色彩表現を確立。素地に模様を彫り込むなど独特の世界観も構築しました。現在の三代五十吉(與成)は先代から受け継ぐ表現の幅をさらに広げ、現代のライフスタイルの中で心に残る作品作りに取り組んでいます。
うっとりする美しい作品が並ぶギャラリー、そして窯や作業場の見学は非常に貴重な体験でした。ワークショップは、参加者の皆さんそれぞれに真っ白な器に自由に絵付けを施し、個性が描き出されていました。
普段の見学では見ることができない製土工場の内部までも見学できる特別ツアーと、その工場で製造した粘土を使った電動ろくろで作品を作るワークショップが行われました。
陶石から粘土になるまでの過程を解説を受けながら見学し、なぜこの地で九谷焼が作られているのかが理解できました。ワークショップは、専任の職人さんによる優しい指導のもと、電動ろくろを使って参加者の皆さんが皿や鉢などの大作を思い思いに作られました。この後、仕上げの作業が施され、焼きあがった真っ白な磁器の器が手元に届けられます。
スピンドルという原始的な道具を使って糸を紡ぎ、その糸でブローチを作るまでを、全編リモートで開催しました。事前に材料や道具が届けられ、参加者はワークショップの時間にパソコンの前に集まって、オンライン工芸体験。旅行や外出の難しい今だからこそ生まれた、新しい工芸体験のかたちです。
富山ガラス工房のオリジナル色「越碧(コシノアオ)」「越翡翠(コシノヒスイ)」や金箔、銀箔を使った硝子制作体験が行われました。グラス、一輪挿し、小鉢などを工房所属のガラス作家さんと相談しながらデザインし、吹きガラスの製法で世界に一つだけのガラス作品を作りました。
2020年9月20日にYouTubeライブで「ONLINE STUDIO TOUR」の番組の一つ「能作オンライン工房見学」を配信しました。高岡市の鋳物メーカー「能作」は、スタイリッシュな自社ブランドの展開とともに、2017年に約4000坪の敷地に移転オープンした新社屋は、見学・体験ができる「産業観光」の場として注目を集めています。そんな「能作」の革新的な取り組みや、そこに込められた想いを、専務取締役 能作千春さんにうかがいました。
■2020年9月20日(日)12:30-12:50
能作 オンライン工場見学
案内人:能作千春
※能作(富山県高岡市)よりzoomを使って中継配信しました
※インタビュー&撮影はGO FOR KOGEI 学生サポーターが担当しています
坂下有紀(つきといと/コミュニケーションディレクター)
富山県氷見市出身。石川県金沢市を拠点に活動する編集者・ライター・プランナー。タウン誌の編集者、ワイナリーや酒蔵勤務を経てフリーランスに。金沢暮らしは2008年から。学芸員・利酒師の資格も持つ、旅と歴史とお酒好き。陶芸・吹きガラス・漆芸・木工・金工・和紙と、興味のある工芸は自分でも挑戦してみるタイプ(そこそこ器用です)。