大滝神社・岡太神社

大滝神社・岡太神社は、深い山に囲まれた越前和紙の工房が軒を連ねる福井県越前市に位置する。全国で唯一“紙の神様”を祀る神社であり、山の頂にある上宮(奥の院)とそのふもとに建つ下宮からなっている。下宮は唐破風と千鳥破風のそれぞれの屋根が連続する神社本殿としては最も複雑な屋根形態を持つ建物であるとされる。本展は、下宮の境内及び上宮に続くエリアで展開される。

九代 岩野市兵衛

展示風景「今立現代美術紙展」(2020) 記憶の家

制作風景

制作風景

越前和紙を代表する紙漉き職人であり、「越前奉書」の人間国宝である。木版画用の和紙のつくり手として絶大な人気を誇る。材料の吟味、扱いから紙漉きの工程まで、製作法には一切の妥協がなく、一枚の紙としての高いクオリティを保つ。本来は、画家たちに提供する和紙を製作する職人を貫き、表に出る機会はほとんどないが、今回は神社に数十基と並ぶ石灯籠の窓格子を市兵衛の手漉き和紙が覆う。灯籠と市兵衛の和紙の組み合わせが見せる質感の妙が見どころである。

1933年福井県越前市生まれ。父・八代 岩野市兵衛より手漉き和紙古来の技法を受け継ぎ、木材パルプなどを使用しない100%楮だけを使用した生漉き奉書一筋に専念してきた。1978年に九代 岩野市兵衛を襲名。2000年には八代に続き国指定重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定される。精選された国内産の楮を原料とし、越前和紙に伝わる古来の技法にしたがい作られた強靭な和紙は、木版画紙として多くの美術作家に好評である。

金重有邦

《伊部大柱》2021 山土 ろくろ成形、タタラ成形 各H250×W70×D70 cm

《伊部大柱》2021 山土 ろくろ成形、タタラ成形 各H250×W70×D70 cm

《伊部大柱》(部分)2021 山土 ろくろ成形、タタラ成形

《伊部陶塔》2021 山土 タタラ成形

《伊部大柱》2021 山土 ろくろ成形、タタラ成形

備前焼の名門である金重家の流れを汲む有邦は、備前の焼締めの伝統を踏まえつつ、さまざまな挑戦を行ってきた。茶陶における桃山備前というまさに金重陶陽、その弟の素山の美意識を踏襲しつつ、独自のユーモラスな世界観で備前の可能性を拡げてきた。茶碗制作が主体だったが、ここのところ大型のオブジェの制作もはじめて、これまで行ってこなかった空間的な展開で新境地を開拓している。日頃の一椀の制作と変わらない作陶心によって生み出されているというところが有邦らしいスタンスである。

1950年岡山県備前市伊部生まれ。武蔵野美術大学彫刻科に学んだ後、父・金重素山の下で陶芸の道に入る。1980年岡山高島屋にて初個展。花入、水指、茶盌など茶陶を中心に制作。近年は山土を用い、土の持ち味を最大限に引き出すことを心掛ける。奇をてらわない、伝統的な作風にその時々の自らの思いを投入する。日本陶磁協会賞金賞、田部美術館大賞「茶の湯の造形展」奨励賞、淡交ビエンナーレ奨励賞、山陽新聞文化功労賞など多数の受賞がある。2019年県指定重要無形文化財「備前焼製作技術」保持者に認定される。

桑田卓郎

展示風景「日々」(2019) 音羽山清水寺

《無題》2015 磁土、釉薬、鋼鉄、顔料、ラッカー H189.5×W154.5×D129 cm

《無題》2016 磁土、釉薬、鋼鉄、顔料、白金 H301×W120×D120 cm

展示風景「日々」(2019) 音羽山清水寺

桑田作品の魅力は、工芸と現代アートの両方にまたがる表現の拡がりにあり、そのボーダレスなところにある。茶碗やコーヒーカップから巨大なオブジェまで大小自在に制作する。作品の組み合わせ方や展示場所も自由で、室内、屋外ともどちらでもユニークな空間を出現させる。色彩はカラフルで、形態は不定形、そのふたつの特徴を遺憾なく発揮して、独特な世界をポップに、軽妙に表現する。「自由」という言葉がよく似合う作家である。

1981年広島県生まれ。2001年に京都嵯峨芸術大学短期大学部を卒業後、2002年に陶芸家の財満進氏に師事、2007年に多治見市陶磁器意匠研究所を修了し、現在は岐阜県多治見市で制作を行う。ニューヨーク、ブリュッセル、ロンドンなど世界各地で個展を開催。LOEWE FOUNDATION Craft Prize 2018の特別賞を受賞。ルベル・コレクション、パームスプリングス美術館、金沢21世紀美術館、ミシガン大学美術館などで作品が収蔵されている。

牟田陽日

《Awakening》2021 磁器、ファブリック H30×W60×D60 cm

《蝕祭》2021 磁器、ファブリック H40×W130×D220 cm

《パルスの庭》2021 磁器、カーペット H1×W160×D2260 cm

《Stego》2021 磁器 H35×W54×D20 cm

《Phantom》2021 磁器 H40×W110×D80 cm

現代化した九谷焼を制作する作家の中でも表現力が強く、個性派である。形づくりも絵付けも自分で行ない、皿や茶碗などの用途のある物から、オブジェ、立体のようなアート作品まで幅広く制作する。近年、作品サイズも大型化して、空間に働きかける作品もはじめ、布などと組み合わせて発表している。なんでもチャレンジしていくところが牟田の魅力だ。獅子や龍などの古典の定番文様からイメージを引き出し、牟田らしい世界観で細密に描きこむ。ディテールが見どころである。

1981年東京都生まれ。2008年ロンドン大学ゴールドスミスカレッジ ファインアート科卒業。2012年石川県立九谷焼技術研修所卒業。現在、石川県能美市にて工房を構える。陶磁器に彩色を施す色絵の技法を主軸に、日常的な食器、茶器などの美術工芸品からアートワークまで多岐に渡り制作。現代の自然に対する意識の在りようをテーマに、動植物、神獣、古典図案等を再構成し色絵磁器に起こしている。日本の美感、工芸、アートの間を相互に交信するような作品制作を目標とする。